「北海道の人って馬鹿ですよ」
何かあったの?
「接客がひどくって。店のやつらも馬鹿だけど、あれで文句言わない客も馬鹿ですよ」
ふうーん。何?どこのお店?
「電気屋です。よくあんなの出しとくなあ。人材がいないんだからしょうがないんだろうけど。でも、クレームの文化がないんでしょうね」
北海道の人はおっとりしているからね
「いや、それじゃあ駄目なんですよ。関西は、クレームする客がいるおかげで、サービスの質がどんどん上がってるんですから。叱ってあげる文化があるんですよ。ほんと嫌になる」
こう吐き捨てるように言った彼女は、私の会社の後輩で、和歌山出身、先日北海道に出張にいった。
大学も北海道で、バイトのたびにストレスがたまったそうだ。
「そうかあ、そんなに馬鹿なんだ。ところで、きみは今日も遅刻したわけだけど、一言も謝らないんだね。まあでも叱らないよ、なぜなら実は私も北海道出身でね、質の悪い人間なんて気にならないんだ」
とは言わなかったが、まあ、少なからずカチンときた。表現おかしいか。
「埼玉と群馬はどちらが都会か」とか、「なんでマックっていうねん。マクドやろ」とか、そういう異郷同士の小競り合いは、冗談で絡む程度にはいいが、限度を超すと怨恨を残す。その口論の場が一方の陣地であった場合、じゃあ二度とくんな!!!けえれ!!!って怒鳴られかねない。
子供のとき灰谷健二郎が好きで、中学生になってからは田辺聖子が好きになった。
そのせいか、こういうメにあっても、わたしの関西人高感度は比較的高いままだ。
それに、この後輩はおそらくどこに生まれてもバカだ。自分を信じて疑わないやつは、バカだ。
私の中で関西人は、軽妙洒脱で懐が深く、相手に気を遣わせない大人、というイメージがあった。
大学で出会った、関西人の友達はみんないいやつらだった(大阪、京都、三重)。
「笑いの芯」みたいのがあって、そいつがうなづくだけで皆が笑ってしまうような、そういう奴もいた(滋賀)。
でも、やはり関西人バッシングをするやつも結構いた。
関西人側には「それ、意地悪でいってるんじゃなくて、コミュニケーションの一環として・・」という理屈があるが、
こっち側にしてみれば、めんどくさいときは正直めんどくさいんだ。
札幌出身の先輩が、大阪出身の助手(32)のもとで卒論をやっていたときのこと、
「マックでもマクドでもどうでもいいんだよ。なんでってオレに聞くな!!おれはマクドナルドという!!そしてホーマックのことをマックと呼ぶ!!!」
と飲み屋で叫んでた。ホーマックとは、北海道のチェーンのホームセンターで、コメリとかしんしんと同じポジションである。
何があったのかしらないが、「ノリの不一致」にいらついてたんだろうな。わかる。
最初の「北海道の接客サービス」の話に戻る。
まあ、彼女の言うとおりなんである。
おおらかで人がよさそうなイメージもあるが、一方でガサツだ。
とくに「浜言葉」というやつは、汚い。私も高校まで「だから言ったべやー」とか言ってた。
だから自然体で接すると、クレームをうける。
あと、妙に商売ッ気のない人も多い・・・・ような気がする・・・・
電気屋の店員も、商品について質問されても
「あ・・あ・・・ちょっと・・まってください」とか、およそ成人とは思えないような言葉遣いと顔つきで応対され、
説明も要領を得なかったそうだ。
それって北海道だけ?・・・かどうか・・・・・はハッキリとわからないのだが、東京出身の両親も「はじめて来たときはビックリしたわ」というくらいだから、まあ、多分そう。
まあ、それも味だから、ほら、本州の人って、わかんないんだよね、このノリ。別にとまどってるわけじゃなくて、素朴さを捨てたくないっていうかさー、・・・・・通用しないよな。
でも、クレームで育てられるくらいなら、駄目なサービスを許して生きるほうがいいなあ・・・。ぬくぬく。
いや、例えば都心にそびえたつ高級老舗ホテルのフロントマンが「わかんないす」っていったら、そりゃあ駄目だよ。いくらもらってんだよ、っつー話だ。
だけど、店の中で大声で怒る客って、だいたいスーパーの鮮魚コーナーとかコンビニだ。
相手は北海道なら時給700円にも満たない学生がかあちゃんだ。
だからミスしてもいいのか、って・・・いいと思うよ。たいしたミスじゃないんだろ、どうせ。
アイスと雑誌を同じ袋に入れたとか、その雑誌もどうせエロ本か風俗情報誌だろ。
バイトの動機も、「金稼がなきゃいけないけど、あんまり変わった職種はする気ないし、接客も一応やっとくか」くらいの子だっているんだから。
私もああいう場所でいらつくことがあるが、相手に怒るより、「こういう安い場所で買い物する人間なんだから、こういうサービスをうけて当然」と思う。そんなに素敵な接客をうけたかったら、セレブ御用達のお店に行け。
これは職業差別だろうか。コンビニを見下しているのか、私は。
まあ、そこまで必要ない店、くらいには思っている。完全に趣味の問題だが、コンビニはこの世になくてもいい、と思ってる。スーパーも・・・便利だけどゴミ増えるから八百屋・魚屋の自営を廻った方がいい。ここは接客の質はピカイチだからなあ。
だから、コンビニで店のおばさんに、おつりの時に手を添えられたり、今日は豆腐は買っていかれないんですか?って話かけられたとき、そのバカ丁寧な態度にひいた。「そういう店じゃないよ」と。町のホットステーションなのかよ、と。
これを周りにいったら、「お前みたいなやつばっかりが働いてたら世の中破滅する」と言われたが、そうであろうなあ。
でも、あのテのトロい子が、接客程度でよかったじゃないか。原子力発電所とか、運転手とか、サッカー選手じゃなくてよかったじゃん。
ま、あと、クレーム、ってのが嫌いなんだよなあ。その手軽さが嫌なんだ。圧倒的に有利な立場っていうのが気に食わないのだ。
「私は昔接客をしていたから、わかるの。あんなの、うちの会社だったらすぐクビになると思う。」って、あのセリフ、いまでも思い出してニヤニヤしてしまう。友人Mがクレーム処理担当をしていたころ、私の前でマネてくれたのだ。30代の女がよくかけてくるんだって。また30代か。M、30代を憎んでるな?でも、私は妙なそのリアリティにすっげえ声たてて笑ってしまった。Mはモノマネがうまい。